母乳育児の手引き

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赤ちゃんは、「お弁当(栄養)」と「水筒(水分)」をもって産まれてくるといわれています。医学的に理由がない限り人工栄養を飲む必要はありません。赤ちゃんが欲しがるときに、欲しがるだけおっぱいを飲ませましょう。

1. 母乳育児の利点

<赤ちゃんにとってのメリット>

  • 赤ちゃんにとっておよそ生後6ヶ月間は理想的な栄養です。
    ・赤ちゃんに合ったオーダーメイドの栄養です。
    ・栄養面だけでなく、消化・吸収が良いので赤ちゃんの胃や腸に負担をかけません。
  • 赤ちゃんの免疫を強くするための物質がたくさん含まれています。その免疫物質が母乳育児期間中だけでなく、それ以降も長期間にわたり赤ちゃんをさまざまな病気から守ってくれます。特に初乳(黄色がかった最初に出る母乳)は重要といわれています。
  • お母さんと赤ちゃんとの信頼や絆を築くのに役立ちます。
    ・視覚、聴覚、嗅覚、触覚などの感覚的相互作用を促します。
  • いつでも新鮮で赤ちゃんにとって理想的な味・温度です。
  • 赤ちゃんが欲しいときに欲しい分だけ飲むことができます

 <お母さんにとってのメリット>

    • 子宮の収縮を促し、産後の出血を減らし、子宮の戻りを良くします。
    • いつでもどこでも適温で新鮮な母乳を与えることができます。
    • 母乳育児は家計を助けてくれます。
    • 子育てが楽しく感じられるようになります。
    • ・授乳によって分泌されるプロラクチンは、「子どもに夢中になるホルモン」と言われています。
      オキシントンは、「ハッピーホルモン」
      ・と言われ、お母さんの気持ちを穏やかにしてくれます。
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2.出産前と出産後の授乳準備

1.妊娠中に行いたい授乳準備

  • 授乳に関する本を読むなどして知識を増やしましょう。
  • 十分な休息、健康的な食事をとり、軽い運動を定期的に行いましょう。
  • 配偶者、家族、担当医や担当看護師に母乳育児を行う予定である旨を伝えましょう。
  • 授乳講習に参加しましょう。
  • 授乳を行っている人に授乳の様子を見せてもらうなどして教わるとよいでしょう。
     
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2.出産後の授乳準備

    • 出産から数時間以内に、可能な限り早めに授乳を行いましょう。帝王切開で出産を行った場合は、身体の準備が整った段階で行います。
    • 赤ちゃんが欲しがるだけ授乳してください。
    • 頻繁な授乳と溜まった母乳の排出によって乳腺が刺激され、必要な時に授乳ができるようになります。
    • 母乳の生成を促し、赤ちゃんの必要とする量が増えるのに対応できるようにするため、授乳は2~3時間ごとに行いましょう。
    • 片方の乳房からの授乳を終えたら、もう一方からの授乳を始める前に、可能であればゲップをさせるようにしてください。
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3.母乳のつくられ方

<母乳分泌に大切なホルモン>

オキシントン

母乳をおっぱいから押し出すホルモン。 

授乳や搾乳などの乳頭への刺激で一過性に濃度が上昇します。

※ただし痛みやストレスが強いと分泌されにくくなることがあります。

プロラクチン

母乳を作り出す、母乳の量を維持するホルモン。
出産直後に一番濃度が高く、その後少しずつ低下していきます。
授乳や搾乳などの乳頭への刺激で一過性に濃度が上昇します。1日で8回以上の刺激があると濃度を保てます。
※刺激をまったく行わないと産後1週間程度で妊娠前の濃度に低下してしまいます。

<母乳分泌に大切なホルモン>

母乳は、その時期に必要となる赤ちゃんに合わせて栄養量や栄養分が変化していきます。最初の2週間の変化は以下の通りです。

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<授乳頻度・1回の授乳時間>

    • 産後0~2日目は1時間ごとにおっぱいを欲しがることがよくあります。 母乳量は少ない時期ですが、赤ちゃんはおっぱいを吸うことで安心します。赤ちゃんの欲しがるままに授乳をしましょう。
    • 産後3日目以降は母乳量も増えてきます。授乳間隔が2~4時間になることもあります。
    • 退院後は赤ちゃんの哺乳状況にあわせて授乳しましょう。
    • 授乳は1日8~12回(2~3時間毎)行いましょう。
    • ・1日の授乳回数を維持することでプロラクチンの低下を防ぎます。
  • 1回の授乳時間は30分程度にしましょう。1時間授乳をしても飲めている量はあまり変わりません。
  • 母乳の作られる量は、産後2週間の授乳(搾乳)回数が影響します。この時期にプロラクチン受容体の数が決定されます。
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授乳のコツ:

最初の数週間、新生児の胃やその他の器官は非常に小さいため、授乳はごく少量を回数多く行う必要があります。
赤ちゃんが大きくなるにつれ、必要な授乳回数は減っていきます。

4.授乳のコツとアドバイス

授乳姿勢

オキシントン

いずれの姿勢も、

赤ちゃんの体が一直線、

お母さんと赤ちゃんのお腹を平行に、

お母さんと赤ちゃんの体を密着させる、

お母さんも赤ちゃんも楽な姿勢で、

ポイントは同じです。

添い乳

授乳初期には特に、この姿勢が楽に感じられるでしょう。

お母さんの頭と背中を枕で支え横になり、赤ちゃんの体ごと横向きにしてお母さんと密着させます。
赤ちゃんの頭をおっぱいに近づけ、赤ちゃんの上の方から乳頭を口へ持っていき、赤ちゃんに深くくわえさせます。
添い寝中に赤ちゃんの鼻がおっぱいで塞がれることがないように注意しましょう。
お母さんの足に枕を挟むとさらに楽です。

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横抱き

(できればひじ掛けのある)椅子やソファーに座ります。
授乳する側の足をのせる台が足元に、赤ちゃんをのせる授乳枕がひざ上にあると楽です。
授乳させたいおっぱい側の腕で、赤ちゃんの頭部から背中にかけて支え、
赤ちゃんと体が密着するように抱きます。
赤ちゃんの足側の腕はお尻を支えるか、授乳させるおっぱいを支えます。

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脇抱き

赤ちゃんをラグビーボールのように小脇に抱え、赤ちゃんの頭だけを脇からおっぱいの方に出すようにして飲ませる姿勢です。

帝王切開をした方も楽にできます。
赤ちゃんの体を腕で挟むようにして、足はママの体の後ろ側に。
お母さんの片側に枕をあて高さを調節して赤ちゃんの口とおっぱいの高さが同じになるようにしましょう。

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縦抱き

赤ちゃんをお母さんの太ももの上に向かい合わせに座らせ、両足をお母さんの太ももを挟むように両側に出します。
必要に応じて赤ちゃんのお尻の下にクッションを敷いて高さを調節し、赤ちゃんの口元が乳首よりも少し低い位置になるようにします。
授乳するおっぱい側の手で赤ちゃんの後頭部を支え、授乳するおっぱいとは反対側の手でおっぱいを下から支えます。
赤ちゃんのあごを少し上向きにさせた状態でくわえさせましょう。

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吸い付かせ方のポイント

乳首で赤ちゃんの口元をつつくきます。
赤ちゃんが口を大きく開けたら、乳房に連れて行くようにし、乳輪全てを含ませるようにします。赤ちゃんの下あごは乳房に埋もれこみ、赤ちゃんの胸はお母さんの身体にぴったりと密着した状態にします。

赤ちゃんの口が大きく開き、唇が外側にめくれているのが理想です。
授乳前後に乳首を拭いたり、きれいにしたりする必要はありません。
数滴の母乳を乳首全体に塗り、乾いたらブラジャーを着けましょう。
こうすることで、乳頭亀裂の予防に役立ちます。

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赤ちゃんの口を乳首からはずす方法

お母さんの小指を赤ちゃんの口の端からやさしく入れ、赤ちゃんの口とおっぱいとの間に隙間を作って空気を入れて、乳首を傷つけないようにはずしましょう。

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母乳の量が十分かどうか知る方法

おしっこの回数が日に6~8回で、透明または黄色の場合、また日に1回の排便がある場合は、赤ちゃんの哺乳量が十分だと言えます

おっぱいが張って痛い時(産後3~7日頃)

特に産後3~7日頃に、急激に母乳が作られ始めるのでおっぱいが張りだしてきます。

  • 赤ちゃんが欲しがる時に欲しがるだけおっぱいをあげましょう。授乳の度に母乳が出てこなくなるまで与えるようにすると、赤ちゃんの必要量に見合う量の母乳が生成分泌されるようになります。
    ・乳房に溜まった母乳を空にする回数が多いほど、母乳の生成量が多くなります。
  • 少量の母乳を手で搾乳して張りを和らげます。
  • 極度の張りの場合には、冷タオルなどを当ててください。

5.搾乳

赤ちゃんと離れている時や、直接授乳が難しい時は搾乳という方法があります。

 <搾乳を始める前に>

  • 石鹸と流水で手を洗いましょう。乳頭の消毒は必要ありません。

 

<射乳反射を起こしやすくするために>

  • 乳房をやさしくマッサージしたり、乳房を温めたりする
  • 赤ちゃんのことを考える、赤ちゃんを見る(写真でも)
  • 楽な姿勢でリラックスして行う
  • 乳頭のマッサージを行う

 

<搾乳方法>

搾乳保存方法には2つの方法があります。手による搾乳と搾乳器による搾乳です。

手による搾乳

メリット:

  • どこでもできる
  • 低コスト
  • 道具が少ない
  • 気になるところから集中的に搾乳できる。力加減をコントロールできる。
  • 乳首を痛めない

手順:

  • 搾乳前には必ず手を洗いましょう。

1. 親指と人差し指で乳輪の境目近くをそっと触ります。

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2. 親指と人差し指で胸壁に向かってやさしく押します。

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3. 別の方向からも親指と人差し指で押しながら、乳輪をつまむように圧迫します。

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4. ゆるめます。圧迫する→ゆるめるを繰り返します。

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5. 分泌が少なくなってきたら別の方向に指を動かして繰り返します。
6. 出てきた母乳を清潔な容器に集めます。
7. 反対側の乳房も同じ手順で行います。

 

搾乳器による搾乳

メリット:

  • 肩こり・手首の痛みなどが起こりにくい
  • 慣れればリラックスしやすい
  • 時間短縮になる
  • 長期間の搾乳でも疲れにくい
  • 両方の乳房から同時に搾乳することで分泌を増やすことができるといわれています

手順:

  • 搾乳前には必ず手を洗いましょう。
  • 搾乳を行う前に、乳房を優しくマッサージしてほぐしておきましょう。搾乳器には乳首をほぐす効果はありません。優しくゆっくり
  • 搾乳を始め、徐々に力を強めていくようにし、乳房に痛みのないようにしましょう。
  • 分泌がなくなる、あるいは少なくなってきたら、搾乳を止めてください。搾乳にかかる時間は15~20分程度です。搾乳器は、使用後、取扱説明書に従って洗浄しましょう。

搾乳量を十分に保つ方法

  • 各手順を正しくゆっくりとリラックスして行いましょう
  • 乳房への不快感や痛みがでないようにしましょう。
  • 分泌される母乳量は、乳房への刺激に直接関係しています。搾乳量を十分に保つために、搾乳は3時間ごとに行いましょう。
  • 母乳の分泌が多い方は、片方の乳房から授乳し、その間にもう片方の乳房から搾乳器で搾乳して保存しておくこともできます。

※メデラなどの搾乳機が当院内の売店にあります。レンタルのご相談は新生児科までどうぞ。

搾乳の保存

殺菌し乾かした容器に搾乳を保存します。容器はガラス製あるいはプラスチック製の密閉できるフタ付きのもの、もしくは殺菌した袋(冷凍パック)を使いましょう。

  • 容器には搾乳の日付・時間を記載したラベルを付けます。
  • 古いものから順番に使用していきましょう。

搾乳の使用

  • 搾乳した母乳は冷蔵庫で3日間保存できます。冷凍する予定の場合は、搾乳から24時間以内に冷凍してください。
  • 搾乳パックは冷蔵庫に移して(約12時間)もしくは水にさらして解凍後、冷蔵庫に保存し24時間以内に使用しましょう。
  • 使用する際にぬるま湯で温め、温かいまま1時間以内使用可能です。
  • 熱湯で解凍すると母乳の成分が壊れてしまったり、赤ちゃんがやけどをする恐れがあります。
  • 残った母乳の再冷凍、再利用はしないでください。余った分は捨てましょう。
  • 解凍した冷凍母乳の匂いは新鮮な匂いではないかもしれませんが、嫌な臭いや酸味などがない限り、悪くなっているわけではありません。

搾乳した母乳の保存期間

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6. よくある質問集

Q:母乳量を増やすためのポイントはありますか?

A:

  1. 出産後も母乳を通してお母さんは赤ちゃんとつながっています。また、母乳生成とお母さんの身体を元に戻すために五大栄養素からバランスよく食事を摂り、妊娠中同様、授乳期間も通常より350キロカロリー分多くのカロリーを摂取しましょう。
  2. 水分をこまめに摂りましょう。母乳に800-1,000mLの体液が使われるため、便秘や脱水予防にもなります。
  3. 頻繁に、初期の段階では2~3時間ごとに授乳してください。また赤ちゃんに乳房に溜まった分を残らず全部飲んでもらうようにしましょう。授乳の回数が多いほど、母乳生成量も多くなります。
  4. 粉ミルク、水、食べ物を赤ちゃんにあげないようにしてください。赤ちゃんのお腹がいっぱいになって授乳回数が減ってしまい、結果として母乳の生成量が少なくなってしまいます。
  5. 母乳の量が極度に少ない場合には、授乳カウンセラーに相談しましょう。
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Q:乳房のサイズが小さいのですが、不足なく母乳を作ることができますか?

A:

乳房のサイズは母乳の量に関係ありません。関係があるのは乳房への刺激ですので、2~3時間ごとに、少なくとも1日に8回は授乳を行いましょう。それによって母乳生成が促され、赤ちゃんの必要とする量を満たすことができます。
また、授乳の姿勢も大切です。正しい姿勢で授乳を行えば、赤ちゃんが楽に吸えるできるだけでなく、お母さんにとっても乳頭亀裂の起きる可能性が低くなり、痛みのない授乳になります。

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Q:扁平乳頭や陥没乳頭でも授乳はできますか?

A:

「陥没乳頭」には扁平乳頭も含まれます。やや珍しいケースではあるものの、こうしたタイプの乳頭の場合でも授乳は可能ですので、授乳カウンセラーの力を借りましょう。
陥没乳頭については、乳輪部に刺激を加えると乳頭が突出する仮性陥没の方がほとんどです。シャワーを浴びながら日に2回これを行うとよいでしょう。乳頭吸引器などで乳頭を引き出すこともできます。
乳輪部が硬い場合には、マッサージをして柔らかくするようにし、赤ちゃんが乳輪全体をくわえることができるようにさせます。必要であれば授乳専門家に相談しましょう。

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