
タイの食材を語る上で欠かせない存在の一つにココナッツがある。トムヤムクンやグリーンカレーのまろやかなコク、デザートに添えられる白い果肉やココナッツミルクの甘い香り。タイ料理の土台を支える存在でありながら、主張しすぎず、料理全体をいい塩梅にまとめてくれる名脇役として知られている。
タイでは、実から水、ミルク、オイルまで余すところなく使われる。若い実からとれるナム・マプラオ(ココナッツウォーター)は暑季の定番ドリンクで、体を内側から穏やかに冷やしてくれる。一方、熟した実を削って搾るココナッツミルクは、カレーや煮込みに深みと丸みを与える重要な食材。料理の仕上がりを左右する役目がありながら、決して前に出すぎない。この控えめさこそが、タイの食文化らしさなのかもしれない。栄養面でも見逃せない。中鎖脂肪酸を多く含むココナッツオイルは、エネルギーに変わりやすく、体から疲れが抜けにくい時の味方。カリウムなどのミネラルも含まれ、汗をかきやすい南国の環境での体調管理にも理にかなう。甘いイメージとは裏腹に、体の巡りを支える実用的な食材なのだ。
使い方にもタイらしい知恵がある。ミルクは煮立てすぎず、油分が分離する直前で火を調整するのがコツ。仕上げに少量加えるだけで、料理の輪郭が不思議と整う。日本ではスイーツの印象が強いが、タイではあくまで料理を完成させるための存在なのである。南国の甘味ではなく、日常を支えるベースの食材として、暑さや忙しさで乱れがちな毎日の調子をしっかりと整えてくれる。それが、ココナッツがタイの食卓に欠かせない理由である。