光の通り道。建築に見るサミティベート病院

光の通り道。建築に見るサミティベート病院

特集
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ここを訪れる人、ここで過ごす人。 すべての人が光の中を行き交う空間、サミティベート病院スクムビット。ふんだんに採り入れられた外光が、自然の息吹や穏やかな安らぎを生み、院内を生命の輝きで包み込む。 そんな「光の開放」という理念は、1979年の竣工以来変わらず受け継がれ、いまもなお癒しに満ちた空間としてここにある。

治療の「場」から、人々の想いに寄り添う「環境」へ。 サミティベートは、総合病院であるとともに健やかな暮らしを支える街のフロントとして、今日もその機能美を誇っている。

Concept 調和

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光を跳ね返す白壁、濃い影を描く大きな庇(ひさし)、そして細やかに造形された神秘的なレリーフ…。 サミティベート病院スクムビットは、ポストモダニズムの遊び心と、タイ伝統建築が持つ陰翳が見事に調和した空間だ。そこに息づくのは、医療機関を超えた「癒しの器」としての美学である。

採光と風の流れに加え、緑や水を配する設計こそ医療施設において心理的ストレスの軽減と回復促進に寄与すると言われる。アールデコ調のステンドグラスから差し込む自然光が植物に降り注ぐ様子は、サミティベートならではの光景だ。また、居心地は“目に映るもの”にも影響されるだろう。窓から見える外壁に柔らかな印象の煉瓦を配置することで、あたたかさや安心感が醸成された。

さらに、建築の随所に施された蓮の花の意匠は、タイ文化に深く根づく仏教の象徴。清らかさと強さを併せ持つ蓮の花は、宗教を超えて継承されてきたこの国の精神性―穏やかに生きる姿、そして癒しを信じる心の投影なのだ。

History 信念 

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1979年、サミティベート病院スクムビットの第一棟が完成した。 そこには「医療と美空間の調和」という斬新な発想があった。設計を手がけたのは、アマリンプラザやステートタワーでも知られる、タイを代表する建築家ランサン・トーソワン。 ポストモダンの自由な造形にタイ伝統建築の精神性を融合させ、医療施設に“文化の香り”を吹き込んだ。

内部空間を仕立てたのは、後に国家芸術家として称えられるデーン・コンサック・ユクタセーウィ。
壮麗でありながらも光と風に呼応するインテリア。彼がデザインした本館ロビー吹き抜けの開放感は、時を経てもなお訪れる人の記憶に残る。

以来、1993年の小児科棟(現・第2ビル)、2005年のロイヤルウィング、2019年の日本人医療センターへと増築を重ねながら、サミティベートの建築は医療と芸術の間を生き続けた。
建物はただ存在しているのではない。二人の建築家たちの信念は、時を超え、今もこの建物に息づいている。

Vitality 生命感

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幼い子どもから高齢者まで、あらゆる世代が訪れるサミティベート病院。それぞれの人が、それぞれの理由で来院する。誰もが求めるのは高度な技術と先端設備、そして医療空間であるがゆえの“安心感”にほかならない。空間の快適性は心理的なリラクゼーションを生み、治療の効率を向上させる。だからこそ、「子どもたちの目に映るもの」「不安を抱えた人の心に触れるもの」を大切にしたい。

院内に注ぐ太陽の光も、瑞々しく茂る内庭の植物も、その生命感こそが魅力だ。明るく伸びやかな空間に人々が集い、そして憩う。いつでもここは、命の力と美しさに満ちている。

 Lighting 照明

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院内を照らす光は太陽光だけではない。サミティベートでは各所に設置された人工光に対しても独自の照明計画を実施し、人々の心地よさに配慮した。全館にわたって間接照明が巧みに使われ、光源を隠す設計が視覚的に落ち着くと評判だ。たとえば緩やかなカーブを描く通路では、天井に仕込まれたラインライトが壁面をなぞり、空間にやわらかさを生んでいる。つまり医療施設にありがちな「冷たさ」や「無機質さ」を排し、そこに人の気配を生む明度のグラデーションを存在させているのだ。

光を抑えるという方法。それはこの建築が空間の奥行きで“癒し”を表現している証だ。

Curve 曲線

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サミティベート病院の設計には、効率よりも“流れ”を大切にする思想がある。本館の螺旋階段、壁や天井、通路の先に見える緩やかなカーブ。どれもが訪れる人の緊張をやわらげ、そのフォルムが心を解きほぐす。歩くたびに変化してゆく視界は、空間から張りつめた空気を排除する。

なかでも、本館の螺旋階段は創設当初からその姿を変えることなく、この病院を象徴する存在であり続けてきた。幾度もの増築を経てもなお、当初のままの曲線を描きながら、今もサミティベートの“原点”を伝えてくれる。曲線とは、構造ではなく心を設計するための線。決して合理的ではない。しかし、そこに癒しの姿がある。

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病院とはただ患部を治療する現場なのではなく、心を健康にする場所であらねばならない。そう考えたとき、院内のすべての箇所は、大きな役割を果たすための「装置」となる。人々の不安をぬぐい、安らぎを感じてもらうためにはどのような仕掛けが必要か。非日常という病院空間を、いかにして自然体の日常に繋いでいくか。重要なのはその境界線だ。同時に、確かな期待感や高揚感も求められるだろう。

そういった課題のひとつひとつに対し、長年を通じて応えてきたサミティベート病院。その提案力と実現力こそがサミティベートのブランドであり、それを具現化してきた意匠にこそ信頼と価値がある。

Flow  動線

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サミティベート病院スクムビットの特徴として、ゆるやかにラウンドする動線が挙げられる。医療施設設計の観点では、動線計画は単なる物理的な交通路ではなく、「視線」と「心理」までを包含するものとされる。待合室、検査室、各通路。動線の交錯部においても遮蔽物や直角の壁で視界を遮らないよう配慮した。その結果、行き先を自然に予感できるような誘導性が、空間にしなやかな流れを生んでいる。

半世紀近くの歴史を持つ建物であるがゆえ、現代の病院機能を取り込みながらも視覚的な圧迫を抑えた“温もりのある”動線計画が生きているのだ。

Memory 記憶

サミティベート病院スクムビットを満たす光は、ただ明るさをもたらすものではない。それは、ここで生まれ、癒え、再び歩き出す人々の“いのち”をやさしく照らすための光だ。蓮が静かに水面に咲くように、これらの空間もまた、時を超えて人の心を包み、再生へと導いてくれる。光、影、緑、そして人。この場所ではすべてが融和し、いつでもひとつの風景として描かれる。

半世紀を経た今もなお、この建築が人を惹きつけるのは、そこに“光”という名で紡がれた人々の記憶が刻まれているからに違いない。

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医療は、技術と設備と、環境と。

昨年(2024年)の日本人外来患者数が、のべ15万人となったサミティベート病院スクムビット。一日約400人もの日本人が来院しました。また、日本人出産件数も年間約160名を数え、日本の未来を背負う新たな命が、当院にてこんなにも多く誕生したことは大きな誇りです。

しかし、異国での生活に不安を拭えない人も少なくないはず。自分自身のことはもちろんですが、やっぱり気になるのはご家族の健康でしょう。

多様なニーズに応えるサミティベートでは、高度な医療技術の提供とともに、それらがより効果的に発揮されるための環境づくりを重視しています。最新の設備、先端の機能、そして何より患者さんが安心して過ごせる空間設計…。どうぞご注目ください。あなたとご家族の健やかなタイ生活を支えるべく、サミティベート病院はさらなる進化をお約束します。

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