健康の流儀。 ―サミティベート病院  医師 尾﨑 岳―

健康の流儀。 ―サミティベート病院 医師 尾﨑 岳―

特集

それでも、あなたは病院がきらいですか。

実は私自身があまり病院を好きではないんです。特に歯の治療が不得意で、つい『痛いですか?』と聞いてしまう。すると歯医者さんが『あんた外科医だろ、何言ってんの!』なんて。

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医師だって痛いものは痛いし、臆病になるときもある。

「部屋にあるネクタイを全部持ってきたんですよ。いただいたものばかりですけど」。尾﨑先生はそう切り出して、撮影とインタビューを行う現場に現れた。医師というとどうも威厳に満ちたというか威圧感のあるタイプをイメージしてしまうが、尾﨑先生は少し違う。友人とまでは言わないが、その場の空気を読むのが巧みでもちろん話も上手。それよりも、とにかく何かこちらからちょっかいを出したくなるタイプなのである。

さっそく尾﨑先生になぜ医師になったのかを聞いてみると、子どもの頃に大怪我をしたことがあり、その治療にあたった外科医の素晴らしい所作を体感したことで医師になろうと決めたという。「肋骨にガラスの破片が刺さるという割と大きな怪我だったんです。父親が慌てて病院に連れて行ってくれたんですが、それが最初は内科だった。その内科のお医者さんは“早く外科へ行きなさい!”って。今だから笑い話になりますが、その内科医はさぞびっくりしたでしょうね」。このようにいつも話にオチをつけてくれるので、インタビューは終始笑いが絶えない。そんな尾﨑先生は当初循環器系の医師を目指したが、より命に直結したフィールドを求めて外科医になることを決意した。「自分の中でやりがいがさらに大きい外科になりました。特に手術はチームプレーで、まあ餅つきみたいなもの。餅つきも一人じゃできないですからね」。手術中はチームのリーダーとして現場を引っ張るわけだが、尾﨑先生だってクールで勇敢な顔だけではない。「私も医師ですけど痛いものは痛いですし、臆病にもなる、例えば歯の治療などを受けるのが不得意だなぁ。だから患者さんの気持ちもわかっているつもりです」。

アメリカへ渡る予定が中止となり、もともと好きだったタイへ。

尾﨑先生は元々海外志向が強く、研修医を終えた頃にアメリカのUCLAへ行くことが決まっていた。しかしそれが中止となり、日本で外科医としてそれはハードに働いた。「多い時には週に5回の手術。二晩寝ないで手術をしていたこともあります。でも、やみくもに手術をしていたわけではなく、メスという刀の抜きどころをいつも考えていました」。尾﨑先生、実は“ビビリー”だという。常に合併症などの心配をしながら手術や治療に当たっているのだが、とにかく失敗が怖い。だから、失敗しないように万全の準備を怠らない。
それはそうだと思う。なんせ人の命を預かっているのだから、ちょっとくらいビビるのは仕方ない。

そして尾﨑先生が来タイしたのが2023年5月。すでにサミティベート病院に赴任していた南医師の勧めもあって、元々好きだったタイの地へ降り立ったわけだ。「周囲からはいろいろ言われました。野戦病院みたいなところで働くのか、象が歩いている隣で仕事をするのか、など、実情を知らない人がたくさんいて閉口したものです」。

尾﨑先生が実際にタイの医療現場に出てみて感じたのは、サミティベートの医療レベルは日本の大規模病院と同等かそれ以上のレベルだということ。最新の医療機材も遜色のない高度なものが揃っているし、日本では使えない有用な薬が認可されているのも医療的にはアドバンテージが高いと語る。

「日本は規制があって、世界中で使用されている薬のうちの約3割しか認可されていないんです。また、健康保険制度が進んでいますが、その制約があるのも確かだと感じています。ただ、日本とタイの医療システムの違いにストレスを感じるほどではありませんね」。

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男性にとっての病院とは。男性にとってのウェルネスとは。

男性というのは、自分の生活に差しさわりがないとなかなか病院へ行かない傾向がある。特に日本人は仕事を優先するのだが、例えば風邪をひいても我慢したり腰痛を放置していると、パフォーマンスが落ちて結果的に仕事にも影響が及ぶ。「実は私自身があまり病院を好きではないんです。先ほども話しましたが特に歯の治療がダメで、歯医者に行ったときもつい『痛いですか?』なんて聞いてしまう。すると歯医者さんが『あんた外科医だろ、何言ってんの!』なんて」。

病院嫌いの克服にはまず考え方を変えてみることが大切だという。病気になってから病院へ行くのではなく、病気にならないために病院を利用するように気持ちをシフトすることから始めてみては?と尾﨑先生は言う。「私の経験から言えば、女性よりも男性の方が痛がり。ですから、病気にならない、痛い思いをしないように自分のパフォーマンスを高めるために病院でメンテナンスするつもり行ってみるのがいいと思います。欧米人のお金持ちなどは、病院を身体のメンテナンス用施設ととらえている人が多いんですよ」。

だから、尾﨑先生はサミティベート病院を単に病気になったら行く病院にはしたくないという。閉鎖的で権威的な雰囲気を避け、まるでホテルのような演出をしているのもその施策の一つ。実際に取材・撮影があった日は春節を控えていて、院内のスタッフには素敵なチャイナドレスに身を包んだ人もいた。「病院を嫌いのままでいるのではなく、病院との付き合い方を変えてみてください。タイの病院はフレンドリーです。患者さんがICUで治療している際にそれをお待ちのご家族がすぐそばでMKみたいな鍋で食事をしていたこともあります。これはちょっと凄すぎですが…」。

また、サミティベート病院は優秀なフリーランスの医師の集まりだということも特記しておきたい。それゆえに患者(利用者)に対するホスピタリティも万全。ぜひ、男のウェルネスを維持・促進するために積極的に利用したいものだ。

健康の流儀は、まず男性が弱い生きものであると自覚すること。

「何度も言ってしまいますが、男性は痛がりだし案外と弱い生きものだと思うんです。まずその事を自覚して、痛い思いをする前に病院へ行っていただきたい」。そう話す尾﨑先生は、医師は究極の接客サービスであるため、その誇りを忘れずにいたいという。医師は弱音を吐かない、動揺しないというのがそれだ。しかし、内心は“まいったな”“どうしよう”と思うこともある。医師だって男である、人である。でも、ネガティブなことを克服していくのもまた尾﨑先生の流儀であり、健康の流儀につながるのではないだろうか。

「総じてタイの男性は、日焼け止めなどのスキンケアにも積極的です。そんなことが社会的に普通の事だからか、タイにいるとなんだか自分も若くしていられるような気がするんです」。

最後に、中年以上の男性がタイの暮らしの中で気をつけたいことをうかがってみた。「そろそろ私も用心しなければならないのですが、とにかく糖尿病と痛風を警戒したいですね。食生活が日本とは大きく異なるので注意が必要です。というか、注意をしていてもハマります。タイ料理はおいしいですからね。だから自炊の機会を増やしてみる、水を積極的に飲む、そしてゴルフでもウォーキングでもいいから適度な運動をする。それでタイでの生活を楽しむ。もう一つ付け加えるなら、歳を重ねるにつれ自らの清潔感に気を使う。そうすることで、必ず良い年齢の重ね方ができるはずです」。健康の流儀を持つことは、きっと明日のためになること。病院嫌いを少しでも克服して、あなたの流儀を見つけてみていただきたい。

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尾﨑 岳(おざき たかし)
1975年生まれ。消化器外科専門医・指導医。がん治療認定医。
関西医科大学医学部非常勤講師。関西医科大学消化器外科および
大阪府済生会泉尾病院を経て来タイ。趣味はゴルフ、ロードバイク。

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