
日本人が大好きなタイ料理の代表格といえば、カオマンガイ、パッタイ、そしてガパオライス。中でもガパオライスは調理が比較的簡単で、〝おうちご飯”としてもすっかり定着した存在。タイ人の家庭でも日常的に登場するポピュラーな料理である。
ところで、この「ガパオ」とは何を指すのかご存じだろうか。豚や鶏のひき肉をナンプラーや唐辛子で甘辛く炒め、ご飯にのせるあの料理─ではない。「ガパオ」とは料理名ではなく、ハーブの名前。英語では「ホーリーバジル」、日本語では「カミメボウキ」と呼ばれ、香りづけに使われる香草の一種だ。したがって「ガパオライス」を直訳すれば〝バジルご飯”となり、ちょっと味気ない。正しくは「パットガパオ(ガパオ炒め)」であり、豚ひき肉を使えば「パットガパオムーサップ」という名前になる。
見た目は雑草のように素朴で、スイートバジルのような華やかな香りもない。それでもガパオがタイ料理に欠かせない理由は、単なる香り付け以上の効能にある。タイのマヒドン大学の研究資料などによるとホーリーバジルは働きがあるとされている。近年は抗酸化作古くから民間療法に用いられ、「不安を和らげる」「呼吸を楽にする」「消化を助ける」といった用や免疫力サポートの研究も進み、健康志向の人々からも注目されているハーブだ。ピリッとした風味が唐辛子やにんにくと調和し、食欲をそそるのもまた薬効の一部なのかもしれない。
ただし、日本ではガパオが手に入りにくいため、スイートバジルやピーマン、インゲンなどで代用されることもある。しかしそれでは、本来の香りや効能までは再現できない。つまり「ガパオライス」という名は誤解であり、料理の本質は「ガパオ」という雄弁なハーブに宿っているのである。