AIは人間を超えない

AIは人間を超えない

ドクター南の生活羅針盤

人工知能の進化は目覚ましく、文章作成、作曲・描画、自動運転などに広く活用されています。医療の現場でも画像診断などに導入され、情報を迅速に処理し、正確な判断を支えるという意味で、人間の能力を補う便利な存在となっています。しかし、AIが人間そのものを凌駕するかという問いには、はっきりノーと答えたいと思います。

その理由はAIがいかに高度な演算を行っても、人間の本質的な営みを再現することはできないからです。例えば、「意識」はまだ科学的に解明されていません。定義すら定まっていないものを、計算することは不可能です。さらに、将来の不安や、仲間とともに達成した喜びなど、我々の情動を、AIは精緻なアルゴリズムで模倣することはできても、実感することはできません。

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「記憶」もまた、単なる情報の蓄積ではなく、感情や情景と結びついて生きています。患者さんが語る生活背景や思いは、診断やケアにおいて重要な意味を持ちますが、AIがそれを内面的に理解することはできません。共感には主観的な体験や想像力が必要であり、生きた記憶と自意識に深く関わっているからです。

AIが適切な言葉を語っていても、真に共感していないのが見えると心に響きません。こうした限界を見ていると、かつてデカルトが唱えた「われ思う、ゆえにわれあり」という命題を思い出します。AIはまるで「考えている」ように見えます。しかし、「自分が考えている」と感じる主体も内面もなく、ひいては自分の行動に責任を持つという感覚も存在しないのです。AIの進化を見てなにより注意すべきことは、「我々がAIのような人間にならないこと」なのだろうと思います。効率や正確さだけを追い求めるのではなく、気持ちの揺らぎや思いやりを持つことこそが人間の本質であり、AIには決してできない尊い営みなのです。

南 宏尚(みなみ ひろたか) 

大阪の高槻病院で長年小児・新生児医療の第一人者として臨床・研究・教育に携わる。サミティベート病院では医療相談やセミナーで邦人社会をサポート。現在は出張ベースで相談やセミナーを継続中。齢50にして長年の不摂生を猛反省、健康的生活に目覚めるも、しばしばリバウンドや激しすぎる運動で体を壊しがち。

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