
人というのは、インプットとアウトプットを繰り返しながら学習していく生きものです。だからどれだけ大量の情報を取り込んでも、それを言葉にしたり、行動に移したりする機会が少なければ、学びはなかなか身につかないといわれています。
この話は、養老孟司さんがどこかで語っていたことですが、たとえば、よく笑う赤ちゃんというのは、母親をはじめとした周囲の人がよく笑うからだそうです。赤ちゃんはその笑顔を無意識に真似し、やがて自然に自分の笑顔を身につけていく。つまり、幸せそうにけらけら笑う赤ちゃんは、笑いの循環が生まれている環境で育っているというわけです。さて、人にとってのインプットの機会は実にさまざまですが、その中でも「旅」はとびきり豊かな学習体験だと思います。旅の途中では、見知らぬ景色や音、匂い、温度、言葉などのすべてが新しい情報です。人はそれを感覚で受け取り、頭の中で整理しながら次の行動を決めていく。つまり旅とは、五感と知性をフル稼働させる“動的な学び”の時間なのです。
そして旅の準備をしている時間にも、同じことがいえます。目的地の歴史を調べたり、地図を眺めたり、交通手段を比較したり。そうした過程そのものが、もう旅の一部になっている。それを面倒だと思う人もいるかもしれませんが、旅が好きな人にとっては、情報を集める行為こそが喜びなのではないでしょうか。タイはいよいよベストシーズンを迎えます。空気が乾き、陽射しがやわらぐこの季節は、まるで日本の初夏のように爽やか。旅をするにはうってつけの時期です。思い思いの“旅心”を携えて、少し遠くへ出かけてみませんか。考えようによっては、海外で暮らすこともまた長い旅の途中なのかもしれません。じっと留まっているだけでは、インプットもアウトプットも細くなっていく一方です。人生そのものを旅の延長だと思えば、次の目的地はいつだって見つかる。そんなふうに思うこの頃です。
文・吉田一紀