
日本のスーパーでもよく見かけるようになった南国フルーツのひとつに、パッションフルーツがある。丸い形にツヤのある皮、カットすると現れる黄金色の果肉。見た目は華やかだが、名前の由来を聞くと少し意外に感じるかもしれない。「パッション」といっても、情熱 (passion)の意味ではない。もともとこの果物はキリスト教圏で〝パッションフラワー(受難の花)”と呼ばれ、その花の形がキリストの「十字架の受難」を象徴するとされたことに由来する。
タイでは「サワーロット」や「ガトックロック」と呼ばれ、街のジューススタンドやデザート店でごく日常的に親しまれており、価格は日本に比べ格段に安価だ。ほどよい酸味と独特の芳香が、南国の強い日差しとよく調和する。タイの人々にとってパッションフルーツは〝体と気持ちをすっきりと整える果物”であり、食後のデザートにもぴったりの存在だ。 栄養面でも侮れない。豊富なビタミンCとβカロテンが抗酸化をサポートし、種に含まれる食物繊維が腸内環境を整える。
また近年は、果皮や果汁に含まれる「ピセアタンノール」というポリフェノールが注目されており、肌の弾力維持や血流改善にも役立つといわれている。暑さや紫外線でダメージを受けがちなタイ生活に、まさに理にかなった果実といえる。
とはいえ、食べ方を知らないとその魅力は半減してしまう。果肉をスプーンですくってそのまま食べるのもいいが、ヨーグルトやソーダに加えると酸味がまろやかになり、種のプチプチとした食感も心地よい。皮がしわしわになった頃が食べごろというのも覚えておきたいポイントだ。パッションフルーツはまさに〝南国の健康食”。情熱ではなく、受難に由来する名の果実が、日々の疲れや乱れたリズムをそっと癒してくれる。