
タイで暮らしていると、バナナという果物との距離の近さを感じる。日本では朝食や間食の定番。手軽で甘い果物という印象が強いが、こちらではもう少し生活に入り込んでいる。屋台の横にさりげなくぶら下がり、食堂では揚げられ、蒸され、ときに料理の一部として存在感を放つ。ひと口にバナナといっても、その種類は驚くほど多い。小ぶりで濃厚な甘みのクルアイ・カイ、しっかりとした食感で調理に向くクルアイ・ナムワー。品種ごとに役割があり、甘さや食感で使い分けられているあたりに、タイらしい合理性がにじむ。完熟したものはデザートに、まだ青いものは揚げ物や煮込みに。熟し具合まで含めて身近な食材として扱われているのが印象的だ。
さらに興味深いのは、実を食べるだけで終わらないところである。その大きな葉は料理を包む器として使われ、蒸し料理にはほんのりとした香りを移す。そして、屋台の焼き菓子や魚料理にも欠かせない存在だ。つぼみは薄くスライスされてカレーやサラダに入り、ほろ苦さが味に広がりを与える。一本の木から、これだけの用途が引き出されることには、食物に対する人間の知恵の原点を見る気がする。
栄養面は?といえば、カリウムを豊富に含み、汗をかきやすい環境でのミネラル補給に適しているほか、エネルギー源としても効率がいい。スポーツ選手などが試合中の栄養補給に食べるのも腑に落ちる。バナナは、使い切ることで整う食材。余すところなく向き合うことで、「少し丁寧に頂いてみよう」と思ってしまうのも不思議だ。そんな感覚を、タイのバナナは心の奥から引き出してくれる。