
日本でもすっかりおなじみになった香草・パクチー。カオパットやカオマンガイの上に添えられ、肉団子の薬味や豚肉冷しゃぶライム和え、シーフードのタレにも使われる“ふわっとアジアの香り”は、日本人にも身近な存在だ。タイでは料理の仕上げに振りかけるのが一般的で、この行為を表す「โรยผักชี(ロイ・パクチー)」という言い方は、“いい感じに仕上げる”という比喩にも使われるほど日常に根づいている。
独特の香りの正体は、リナロールを中心とした精油成分。自律神経のバランスを整え、食欲が落ちやすい暑い環境でも体をそっと後押ししてくれる。このパクチー、実は古代エジプトの医学書にも記述が残るほど歴史が古く、種子はコリアンダーシードとしてスパイスに、葉はパクチーとして薬味にと、ひとつで二役を担う珍しいハーブだ。意外に知られていないのが“根っこ”の活躍。スープの香りづけやクンオプウンセンには欠かせず、タイの家庭では根だけを集めて冷蔵庫に常備していることも多い。日本のようにサ ラダとして主役になることは少なく、むしろ “仕上げの名脇役”としての存在感が際立つ。
栄養面では、ビタミンA・C、鉄分、カルシウムが含まれ、抗酸化や免疫サポートに期待できる。老廃物の排出にも関わる働きが注目され、タイの伝統医療では“巡りを整える食材”として扱われてきた。スープに散らせば清涼感が増し、炒め物は火を止める直前に加えるのがコツ。香りが強いと感じる人は、ミントやバジルと合わせれば穏やかな風味になる。パクチーは単なるエスニック食材ではなく、香りと栄養で心と体のバランスを調整する野菜。タイの日常に根づいたこのハーブが、忙しさや暑さで乱れがちな毎日のリズムを、美味しさと共に整えてくれる。