
タイは年に3回の正月があり、とてもおめでたい国だと冗談で言われる事があります。一つ目は1月1日の新年で、これは万国共通。二つ目は例年2月に行われる春節で、中華街を中心に街中が真っ赤な新年の飾りで彩られます。そして3つ目がタイの旧正月であるソンクランです。毎年4月13日・14日・15日頃に開催されるソンクラン祭り。「水かけ祭り」とも呼ばれ、その大騒ぎぶりはあまりにも有名で、これを目当てに多くの外国人観光客がタイを訪れます。僕もかつてはバケツに入れた氷水をその辺の人にかけたりしてはしゃいでいました。ただ、本来のソンクランは新年の幸福を願うどちらかといえば淑やかな伝統行事で、水をかけ合うのはお互いの不運を洗い流して幸運を招くためにする行為。けっして水かけ合戦ではありません。
ある年、ソンクランをタイ北部の入り口であるナコンサワンで過ごした時のことです。知人宅の近くの集会所のような所に誘われ、本来のソンクランを初めて体験しました。テントの下には何人かの年配の方々が椅子に座っていて、僕はほのかにジャスミンが香る水をその人たちの掌に優しく注ぎました。すると、一人の高齢のご婦人が「あなたも幸せになりなさいね」とつぶやきながら、僕の肩に掌の水をかけてくれました。すると我慢できずに涙が出てきてしまいました。ちょうど気持ちがナーバスな時期だったので、嬉し泣きですね。そこはナコンサワン(天国の都市)。「俺、なんだか救われちゃった」って思い、感無量になったのを憶えています。
人っていうのは、経験を積むことで嫌なことに対しては耐性が身につくといいますが、本当に感激するとどうも感情を抑えられない。そんな水の贈り物と一緒に、今年もソンクランがやってきます。