医師の子育て、春の朝

医師の子育て、春の朝

南国の子守唄

4月、東京千鳥ヶ淵の桜は今年も美しく咲いているが、我が身はバンコクにあって、花を愛でることなく母国の春は過ぎていった。年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず。年とともに人の境遇が変化するように、医療の業界にもここ数年で大きな変革があった。1つは男性医師の育休取得の増加であって、これは大変喜ばしいことである。

僕が働き始めた10年前に医師が育児休暇を申請したなど聞いたことがなかったが、今ではよっぽどの人手不足でない限り、部署の目を気にすることなく取得できるようになってきているのではないだろうか。新生児期の育児のおぼつかない時期に夫が当直で家にいないのと、側にいるのとでは奥さんの心持ちも大いに違ってくるわけで、諸手を挙げて賛成したい風潮である。

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もう1つの変化は研修医の労働時間の制限で、医師の働き方改革もあって、17時以降は業務をしてはいけないなどの制限を設ける病院も見かけるようになってきた。ひと昔前はそのような規制はなく、僕の研修先は自分の担当患者については24時間対応をするという方針だったので、休日はないに等しかった。担当している人数が30人くらいになってくると、日中はひっきりなしに電話が鳴るし、夜中もだいたい1人は大小の問題が起こって電話がかかってくる。

そういう生活に慣れていたこともあってか、子供が夜中や明け方に泣いたときも「うにゃ」という第一声で目が覚めてしまう。研修医時代の友人に話をすると彼も奥さんより早く起きて世話をしているようで、一種の職業病なのかもしれない。ここバンコクに来てからも、子供が夜泣きをしたとき、体調不良のときの世話はもっぱら僕の担当であって、オムツを替えたり、鼻を吸ったりと夜な夜な育児に励んでいる。妻はというと、医療者が適切に事を運んでくれると安心しているようで、海辺に寝そべるアザラシのごとく、いつも気持ちよさそうに眠っておられる。時は春。日は朝(あした)。すべて世は事もなし。

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