「未来」という言葉を使って文章を書くことがなかなかできませんでした。それはなぜかというと、なんとなく恥ずかしいからでした。「なんじゃそれ?」と思う人もいるかもしれませんが、そうなんです。未来とは時間の概念の一つ。過去・現在と並ぶことだけど、未来はより広く普遍的なニュアンスを含み、ちょっと大げさな感じがしてしまうんですね。まあ、僕の自意識が少し過剰でそんなことを考えてしまうのかもしれません。
ところが、ある書籍で偉大な音楽家の一人であるマイルス・デイヴィスの言葉が紹介されているのを読んで、「そうか、そう考えればいいんだ」と気付いてこの原稿を書いています。その言葉とは『オレの未来というのは、毎朝、起きた時に始まるんだ』というもの。マイルスがどう考えてこの言葉を残したのか心の奥底まではわかりませんが、過去や現在の積み重ねの続きに未来があるのではなく、未来っていうのは毎日の朝から始まる新しい時間の流れだと解釈しています。
だから、未来は始まりである!と考えてみると、言葉にして使っても恥ずかしくも何ともありません。未来の始まりが毎朝訪れる。こんな素敵なことはなかなかないと思います。マイルスの場合はアーティストですから過去に創造して積み重ねてきたものに固執せず、常に新しいスタイルを見つけるために未来という旅に出るわけです。
じゃあごく普通の人である僕ならどうするのか。毎朝が未来の始まりなのであれば、僕は喜んで未来の旅へ出ようと思います。マイルスみたいに格好よくはないけど、仕事でも遊びでも朝起きた時にリセットして始める。嬉しいこともつまらないこともあったかもしれないけど、とにかくリセットしちゃうわけです。何かがあって昨夜よく眠れなかったとしても、朝は必ずやってきます。
では“俺の未来”があまりぱっとしなかったらどうしたらいいのか。もしそんな日があったらとりあえず寝ることにしましょう。
そして次の朝を迎えましょう。未来は、毎朝、起きた時に始まるのですから。
(文・吉田一紀)