ゴルフを始めたのは、大学を卒業していわゆる“社会人”になってすぐの頃。
父が「おまえもゴルフでもやれば」と、クラブのフルセットを買ってきてくれたのがきっかけです。ゴルフをやろうなんて思ってもいなかったのでクラブの知識もまるでなし。テレビで時々プロの試合を見たことがあるくらいで、“お金持ちのおっさんたちのスポーツ”と決めつけていました。ただ、ゴルフクラブの見た目になぜか美しさを感じ、これでプロみたいに打てたら気持ちいいかもと、打ちっぱなしの練習場に通うようになりました。
父が買ってくれたクラブはマッスルバックというプロがよく使うタイプ。今思うと、なんでそんな難しいクラブを僕にあてがったのかはわかりませんが、きっと少し期待していたのかもしれません。父は僕が子どもの頃からいわゆる“ステージパパ”で、部活で野球をやっていた時も学校が半ば指定するグラブやバットがあっても、「そんなの使っていても上手くならないから」と、自分がグラブやバットを選んできました。そのセレクションがまた抜群で、道具選びにおいては父にそれなりの信頼を感じていました。
僕がコースに出られるレベルになると、いろんなコンペに誘ってくれるようになり、やはりコースでプレーするようになると腕はそれなりに上達します。若いからよく飛んだし、マッスルバックは気難しかったけど、きちんとボールを捉えるとキレのあるショットを打てました。父は扱いやすい低重心のアイアンを使っていたのですが、僕がそのマッスルバックでいいショットを打つと自分のことのように喜んでいました。
僕はゴルフを“時を味わう”スポーツだと思っています。ボールを打って歩くことの繰り返しの中で、誰と何を話してどんな時を過ごすのか。こんな知的なスポーツってなかなかないのではないでしょうか。
一度だけ、父と二人でラウンドしたことがあります。その時に何を話したのかはもう忘れましたが、とても素晴らしい時間だったことだけは憶えています。
文・吉田一紀