タイで病院にかかったことが、これまでに何度かあります。最初は、まだ出張でタイに来ていた頃のこと。その時は日本を出発する時点ですでに風邪気味だったのですが、タイに着いてから、案の定こじらせてしまいました。咳がひどくなり、お酒どころか食事もまともに喉を通らない状態に。これはさすがにまずいなということで、加入していた海外旅行傷害保険の相談窓口に連絡し、バンコクのサミティベート病院を紹介してもらいました。
病院に到着すると、受付で「日本語通訳が必要ですか?」と聞かれました。当時すでにタイ語も少しは話せたのですが、話す相手はタイ人の医師で、こちらは日本人の病人。フィーリングだけで意思疎通するにはリスクが大きいなと思ったので、迷わず、そして見栄も張らずに「必要です」と答えました。血圧、心拍数、体温を測った後、いよいよ問診です。
ここで大事なのが「自己主張」。異国の地では、遠慮していても病気は治りません。「これくらい言っていいのかな?」なんて気を遣っていると、通訳がいても本当に伝えたいことがぼやけてしまう可能性があります。そこで僕は10分ほどの問診中、ひたすら「とにかく、この咳を止めてください」と強調しました。
問診の際の受け答えというのは曖昧になりがちですが、大切なことはまず医師に“正確な情報”を届けること。情報がきちんと伝われば正確な診断を受けることができますし、こちらの要望にも応えてもらえます。その結果、薬を3種類ほど処方してもらえることになり、ひと安心。幸い、処方された薬がとてもよく効いて、咳はすぐにおさまりました。
日本を離れたタイの地で体調不良をきたすと、何かと不安になるもの。でも、辛い痛みや咳に耐えたところで、あまりいいことはないような気がします。だからこそ、「外国にいるのだから」「タイ人の医師だから」と、タイで病院にかかることを物怖じしてはならない。そして、時と場合にもよりますが、つくづく自己主張って大切だなと思った経験でした。
文・吉田一紀