
誰かにインタビューした日というのは、いろいろと考えてしまうことがよくあります。そんなことをする必要はないのに、他人にした質問をついつい自分に置き換えてしまうんですね。例えば、何かしらその人の過去について聞いた日は、今度は昔の自分についてあれこれ考えてしまう。よせばいいのに、これをやりだすと眠れなくなります。過去に残してきたものごとは当然記憶の中にあるのですが、思い出そうとすると、まるで望遠鏡を逆さに覗いたときのように遠くに小さく見える。そんな記憶の断片は、ずっと奥の方に追いやられた景色のようになっていることが多いのです。
そして、このような記憶の多くは、きっとどんどん小さくなって、やがては霞んでよく見えなくなってしまうはずです。ただ、そんなふうにぼんやりとしていく記憶を蘇らせるものがあるといいます。僕の場合は音と匂い。これはプルースト効果というらしいのですが、特に音楽がトリガーとなっていろんなことをふいに思い出すことがあります。それも好きでよく聴いていた曲とかではなく、商店街の店先から聴こえてくる古いCMソングのようなもの。それがきっかけとなって、親に頼まれた買い物を間違えて小言を言われたことを思い出したり…さらに、匂いはもっと強い引き金となって記憶を喚起します。樟脳や蚊取り線香の匂いで実家を思い出したり、雨の匂いで部活終わりの下校時を思い出したり。
実は先日もインタビューをしました。「もし、若い頃の自分に一つだけアドバイスをするとしたら?」というのがその時の質問の一つ。そして、いつものように自分にも問いかけてみると、何を伝えればいいのか、しばらく考えてしまいました。もしかすると、過去は手繰り寄せるというよりも、ふと音や匂いに連れられて、向こうから会いに来るものなのかもしれない。誰かに投げかけた質問は、こうしていつも少し遠回りをして、自分のところへ戻ってくるのです。
文・吉田一紀