“Takashimaya”の赤いロゴ、店に入るとほのかに香る香水、バラの花をあしらった包装紙。そのどれもが、髙島屋というブランドが綿々と持ち続けてきたイメージ。きっと、多くの人がそんな印象を持っているのではないだろうか。
奥森淳誌さんは、そんな髙島屋でこれまでの人生を磨いてきた、サイアム髙島屋のマネージング・ダイレクターだ。1991年の入社以来、食料品や婦人服を担当し、その後は大阪店の増床や日本橋店の改装などのプロジェクトに関わり、2020年3月にタイに赴任。2022年から社長として同店を切り盛りしている。「髙島屋に入社して以来、初の海外勤務がこのタイでした。タイに赴任した2020年の初頭はコロナ禍が社会に影を落とし始めたタイミングで、あれこそまさに失われた2年間。ただ、ネガティブなことばかりではありませんでした」。コロナ禍でタイの社会も揺れたが、それ以上に災いをバネにして成長しようとするその姿に感銘を受けたという。
「タイはまさにアメージングな国だと思います。とても洗練された一面を持ち、人々が常に上昇志向と共にライフスタイルにイノベーションを求めている。コロナ禍終焉のタイミングではそんな気質が功を奏して、今はより精神的な豊かさを求めているように感じています」。
デイ・バイ・デイでシフトする街、スピード感にあふれた感性が生き生きとした街。それがタイのメトロポリスの隠れた魅力なのかもしれない。
「当店のエントランスをご覧になっていただければわかるのですが、アイコンであるTakashimayaのロゴと花をあしらい、“美しい時間”を楽しんで頂くための演出をしています。同じフロアに化粧品とランジェリーの売り場を配したのも、外側と内側の両面から美しくなりたいというジェンダーレスなタイのお客様の意識の高さに合わせています」。
そんな奥森さんが率いる髙島屋では、タイ社会との共存も大切にしている。画家を目指すアジアの子どもたちを支えるホワイトキャンバスプロジェクトへの支援など、アジアの西の玄関というこの要衝地で、子どもたちが自己実現できるような世の中の醸成に貢献していくという。「髙島屋人として力になれることは、今までの経験を活かしながらすべてやっていきたい。そのためにも、これから訪れるであろう老いという必然に抗うのではなく、上手に付き合いながらスマートに年齢を重ねていきたいですね」。
「だからこそ、暮らしの中で最も大切なのは“食”だ」と言う奥森さん。「タイという恵まれた環境の中での生活では、やはり健康と食事の関係に気が向きます。ですから、自分もそこにはこだわりがあって、夜の会食がない日はなるべく自炊すると決めています。プロのように手の込んだものは作りませんが、趣味は料理!と言えるくらいの食事を自分でこしらえるんですよ」。
健やかな身体に宿る情熱。こうして、奥森さんと髙島屋のデュエットはまだまだ続く。
奥森 淳誌
SIAM TAKASHIMAYA(THAILAND)CO., LTD.
Managing Director
(おくもりあつし)1965年生まれ。1991年、髙島屋大阪店に入社。大阪店新本館や日本橋再開発プロジェクトを手がけた後、リビング・フードのマーチャンダイジング部門長を経て、本社経営戦略室など企画関連の部門を歴任。2020年よりタイ・バンコクのサイアム髙島屋へ赴任し、2022年よりマネージングダイレクターに就任。趣味はゴルフ・料理。