
タイの街中を歩いていて、時々「この香りは何だろう」と足を止めることがある。甘く、青く、どこか懐かしい。その正体がバイトゥーイ(パンダンリーフ)である。日本ではあまりなじみがないが、タイではスイーツから料理、飲み物までに幅広く使われる定番のハーブだ。ローカル市場では日常的に見かけることも多く、特に地方の家庭などでは常備されていることもある。
バイトゥーイが身近に使われているのが、鮮やかな緑色をしたスイーツ「カノムチャン」。ココナッツミルクと合わせた菓子がそれで、ほんのり甘い香りが全体をまとめる。また、米を炊くときにバイトゥーイを一枚加えれば、炊きあがった際の湯気までが美味しそうに香る。さらに鶏肉を包んで揚げる「ガイ・ホー・バイトゥーイ」やハーブティーなどにも使われ、その役割は味を足すというより、素材の持ち味を引き立てることにある。
栄養面でも素晴らしい。バイトゥーイにはポリフェノールやβカロテンが含まれ、紫外線による酸化ストレスから体を守る働きが期待されている。また、カルシウムや鉄分もわずかながら含まれ、昔からタイでは体の熱を和らげる食材としても親しまれてきた。その香り成分には気分を落ち着かせ、食後のひと息を心地よくしてくれる作用もあるといわれる。タイの暑さで疲れた体にもとても優しいハーブだ。
料理には塩や砂糖のように味を決める食材がある。一方で、バイトゥーイは香りで料理の印象を決める食材だといえるだろう。口に入れる前から食欲を呼び起こし、食べ終えた後にも余韻を残す。その栄養はもちろん、気持ちがほどける香りもまた、体を整える大切なごちそうなのである。