
「笑う門には福来る」とはよく言ったものだと思う。この言葉は単なる人生訓ではなく、医学研究から見ても理にかなっていることが分かってきた。私たちは楽しいから笑うけれども、どうやら無理にでも笑うから楽しくなる側面もあるらしい。笑うと脳内ではエンドルフィンやドーパミンが働き、気分を軽くし、ストレスを和らげることが知られている。
さらに意味深いのは、笑いが体にも影響を及ぼす点だ。笑うことでストレスホルモンであるコルチゾールが大きく低下することが報告されている。つまり、笑うことで心だけでなく体も少し楽にしてくれるのである。もちろん、笑えば病気が治るほどの効果はない。けれども、気分が上向きになり、緊張がほぐれ、人との関わりが円滑になることについては、かなり確かな根拠があるようだ。もっと面白いことに、人は自分が笑うだけでなく、相手の笑顔からも影響を受ける。微笑みや共感を含んだ笑顔を向けられるとストレス反応は和らぐが、心とは裏腹のシニカルな笑いでは逆効果になる。その人らしい自然な笑顔にこそ意味があるということだ。

私たちの日常にも思い当たる場面は多い。忙しい朝に交わす「おはよう」の笑顔。それだけで空気が柔らかくなり、元気をもらえる気がする。職場も家庭も、人が集まるところには必ずストレスがある。つい無表情やしかめっ面で過ごしがちだ。わたしも家で毎日のように「笑って」と言われている。無理にでも笑顔を作ると、そのバカバカしさに思わず本当に笑ってしまい、自分だけでなく周囲の気持ちまで明るくなる。
「笑う門には福来る」とは、どこかから福が舞い込むという意味ではなく、笑顔のあるところに人が集まり、安心が生まれ、その積み重ねの結果として福を感じられるようになる。そんなささやかな幸せを言い表したものなのだろう。タイで過ごす日々の中にも、この幸せが確かにあると感じている。
大阪の高槻病院で長年小児・新生児医療の第一人者として臨床・研究・教育に携わる。サミティベート病院では医療相談やセミナーで邦人社会をサポート。現在は出張ベースで相談やセミナーを継続中。齢50にして長年の不摂生を猛反省、健康的生活に目覚めるも、しばしばリバウンドや激しすぎる運動で体を壊しがち。