
四十代の正月休み、疲れ切って三日三晩起き上がれなくなったことがある。当時私は、決して特別ではなかった病院の小児科・NICUを日本一にするという目標に全力で取り組んでいた。自分の考えに共感する人を集め、少数精鋭のチームでひたすらアクセルを踏み続けた。その結果、目標にはかなり近づけたように思う。
しかし今振り返ると、適切な休息も取らず、私生活も顧みない働き方だった。情熱と理想を掲げるあまり、周囲のスタッフにも無理を求めていたかもしれない。そんな歩みを改める転機が訪れた。自らが疲労困憊を経験したことに加え、直属の部下が燃え尽きてしまったのである。そこで初めて立ち止まり、自らの進み方を見直さざるを得なくなった。以来、人を増やしてチームを拡大し、役割分担する体制へと改めた。すると不思議なことに、かえって優秀な人材が集まり、以前よりも充実した医療チームが形成されていった。

この経験から学んだのは、目標に向かって頑張ることと、無理をすることはまったく別だということである。ペースを考えず全力疾走を続ければ、やがて走れなくなる。熱中のあまり限界を超えることは、情熱ではなく過信である。自分を倒れさせるだけでなく、周囲を疲弊させ、置き去りにしてしまうこともある。情熱は個人にとっても組織にとっても成長の原動力であり、事業を成功させるために欠かせない。しかし、その熱意が強すぎると視野が狭くなり、自分にも周囲にも負荷をかけてしまう。
毎年夏になると、ゴルフやランニングの最中に熱中症で倒れたというニュースを目にする。水分を補給し、周囲の景色を見ながら、自分に合ったペースを守ることが大切だ。それはスポーツにとどまらず人生や仕事にも当てはまるだろう。人は暑さだけでなく、情熱が強すぎても倒れることがある。長く走り続けるためには、前へ進むのと同じくらい、立ち止まり、自分と周囲を見渡す余裕が必要だ。私にとって熱中症はそんな意味を持つ言葉なのである。
大阪の高槻病院で長年小児・新生児医療の第一人者として臨床・研究・教育に携わる。サミティベート病院では医療相談やセミナーで邦人社会をサポート。現在は出張ベースで相談やセミナーを継続中。齢50にして長年の不摂生を猛反省、健康的生活に目覚めるも、しばしばリバウンドや激しすぎる運動で体を壊しがち。