
会社では部長。家庭では父親。それなりに修羅場をくぐり抜け、人生経験も積んできた。若い頃ほど無茶はしない。感情のコントロールも覚えた。失敗とも、それなりに付き合えるようになった。そんな、はずだった。ところが、フェアウェイに立つと勝手が違う。飛ばしたい。勝ちたい。上手く見られたい。ティーショットひとつで一喜一憂し、短いパットを外して落ち込み、同伴者の飛距離に気もそぞろ。普段は正体を隠している欲や見栄、焦りや執着が、フェアウェイでは丸裸にされてしまう。だから、ゴルフは面白い。なぜ僕たちは、これほどまでにゴルフに魅了されるのか。タイという世界有数のゴルフ環境のなかで、ゴルフを通じて自分自身と向き合う意味。そして、その挑戦を支えるプロフェッショナルに話を聞いた。

奈良県の浄土宗寺院に生まれ、僧侶でありながらもPGAティーチングプロ資格を取得。タイを拠点に「ZEN Golfer's Factory」「ZEN Golf Academy」を主宰し、禅の思想を取り入れた独自のゴルフ指導を展開する。タイシニアプロゴルフ協会(TSPGA)名誉会長。ゴルフを通じて心と身体を整える「ZENメソッド」を提唱している。
ここからのゴルフ。難しくなる理由、はまる理由。

人は老化そのものに苦しむのではなく、「若い頃の自分」と比較することで苦しみます。仏教では「比較が苦しみを生む」と説きますが、ゴルフ場ほどそれが表れる場所はありません。昔の飛距離、昔のスコア、昔の成功体験。頭の中には絶好調だった頃の自分が残っています。しかし、目の前のボールは過去の栄光を知りません。現在の肉体や技術による結果しか返してくれないのです。今の皆さんのゴルフで大切なのは、失ったものを数えることではなく、「今の自分」を受け入れること。そこから本当のゴルフが始まるのだと思います。
若い頃のゴルフは比較的シンプルです。練習量を増やせば上達するし、筋力をつければ飛距離も伸びる。しかし50歳を過ぎると事情が変わります。身体は確実に変化しているのに、頭の中の自分は20代や30代のまま。そのズレがミスショットや怪我につながるのです。身体は50歳、意識は30歳。多くのアマチュアゴルファーは、そのギャップに気づかないまま昔と同じスイングを求めてしまいます。ですから、がむしゃらに練習量を増やしたところで若さは取り戻せません。大人の男性のゴルフには、自分の身体を理解し、それに合わせてプレーを変えていく柔軟さが必要なのです。
ずばり、ゴルフほど人間の本性が現れるスポーツはないと思っています。ミスをした時の態度や同伴者への対抗心、スコアに対する執着。フェアウェイの上では、それらを通じてその人の正体が見事にさらされます。ゴルフは自分自身を映し出す鏡のようなスポーツ。感情に振り回されるのか、それとも冷静さを保てるのか。その差がスコアだけでなく、その人の「人間性」として現れるのです。
ゴルフの理想は「エンジョイゴルフ」だと言われる。だが、それは単に楽しくプレーするという意味ではない。ナイスショットに歓喜し、ミスショットに落ち込み、思い通りにならない展開にもかならず出会う。そこで大切になるのは、結果に心を振り回されることなく、起きたことを受け入れ、気持ちを整え、次の一打に向かう姿勢なのだろう。うまくいかない現実を受け入れながら、それでも前へ進む。そこにゴルフの面白さがある。もしかするとゴルフとは、人生を少しだけ上手に生きるための練習なのかもしれない。
僕たちは、ゴルフを通じて変わることができる。

人生は、命が尽きるその瞬間まで未完成です。にもかかわらず、多くの人は「もう若くない」「今さら無理だ」と、自分で限界を決めてしまいます。しかし本来、挑戦に年齢制限はありません。ゴルフの世界では、50代、60代になっても本気で上達を目指し、夢を追い続ける人たちがたくさんいます。特にタイでは年齢という概念が良い意味で曖昧です。60歳を超えても真剣に競技に向き合い、悔しがり、成長を喜ぶ人が当たり前にいる。私はそうした姿を見るたびに、人間は何歳からでも変われるのだと感じます。人生に必要なのは、諦める理由ではなく、挑戦する理由を見つけることだと確信しています。
加齢を理由に多くの人が挑戦を諦めているように思います。しかし実際には年齢ではなく、失敗することへの恐れがブレーキになっているケースが少なくありません。だからこそ目標が必要なのです。ベストスコア更新でもいい。競技会でもいい。シニアプロテストでもいい。本気で目指すものがあると、人は驚くほど前向きになります。目標を持つことで日々の練習に意味が生まれる。昨日の自分を超えようと思える。そして何より、人生そのものが楽しくなるのです。
「プロゴルファーになりたい」。それは多くのゴルファーが一度は抱く夢でしょう。しかし、その夢は若者だけのものだと思われがちです。ところがタイには、その常識を覆す舞台があります。TSPGA(タイシニアプロゴルフ協会)は50歳以上を対象としたシニアプロ制度で、タイ人はもちろん、日本人を含む外国人にも門戸が開かれているのです。当然ですが簡単な挑戦ではありません。長年のクセを修正し、体力を維持し、技術を磨く必要がある。仕事や家庭との両立も求められます。それでも挑戦を続ける人が絶えないのは、プロ資格そのものが目的ではないからだと思います。その姿勢には、もう一度、己の瑞々しい日々を取り戻そうとする情熱がみなぎっています。シニアプロ挑戦者たちは、まさに第二の青春を生きているのです。

タイには、大人が「プロ」を目指せる舞台がある。TSPGA(タイシニアプロゴルフ協会)だ。50歳以上を対象としたシニアプロ制度で、日本人を含む外国人にも道が拓かれている。ZEN GOLF ACADEMYは、そんな新たな目標へ向かう、多くのゴルファーたちの挑戦を支えているという。興味がある方は、ぜひチャレンジしてみてはいかがだろうか。そこには、同じ志を持つ多くの仲間たちもいる。
ゴルフは、すなわち動く瞑想である。

ゴルフでミスをした時、多くの人は過去に意識を向けます。「あのショットが良くなかった」「あそこで刻むべきだった」。逆に次のホールでは未来を考えます。「ここで取り返したい」「なんとか100を切りたい」。仏教や瞑想では「今ここ」に意識を置くことを大切にします。ところが人間は放っておくと、過去への後悔や未来への不安に引っ張られてしまう。ゴルフは、その心の動きが結果として表れやすいスポーツなのです。だから私はよく、「ボールは過去にも未来にも打てません」とお伝えしています。打てるのは、目の前の一球だけ。その一球に集中する積み重ねが、結果的に良いゴルフにつながるのです。
瞑想という言葉を聞くと「目を閉じて無になること」や「特別な修行」を想像する方もいるでしょう。しかし私がお伝えしている瞑想はもっとシンプルなものです。ひと言で言えば、「自分自身を客観的に観察するトレーニング」です。ゴルフは18ホールで4〜5時間を要しますが、実際にボールを打っている時間はほんの数分しかありません。それ以外の時間、人はその日のラウンドの行方を考え続けています。だから私は、ショットの前に呼吸を整える習慣を身につけてもらいます。深く息を吐き、自分の身体感覚に意識を戻す。これは単なるリラックスではありません。脳を「今この瞬間」に戻すためのスイッチです。トップアスリートほど、結果ではなく今やるべき動作に集中していると言われます。感情に振り回されなくなることで、本来持っている力を発揮できるようになるのです。
池越えのショットは、プロでも緊張します。しかし大切なのは、恐怖を消そうとすることではありません。「今、自分は怖がっているな」と気づくことです。すると不思議なことに、感情と自分との間に距離が生まれます。恐怖に支配されるのではなく、恐怖を感じながらも行動できるようになるのです。私は長年僧侶として多くの方々と接してきましたが、50代を過ぎると多くの人が共通の課題を抱えます。それは身体の疲労ではなく、心の疲労です。仕事では責任が増え、家庭では立場が変わる。将来への不安も出てくる。それだけに、人生の後半には身体を休めるだけでなく、心を整える時間が必要です。青空の下で芝の感触を感じる。風を感じる。鳥の声を聞く。そして呼吸を整えながらボールを打つ。私はよく、「ゴルフは動く瞑想です」とお話しします。ボールは過去にも未来にも打てません。打てるのは今だけです。ゴルフを通じて「今を生きる力」を磨くことができる。そして、その力はコースの外の人生にも活きてくるのです。
ゴルフでは、過去のミスを悔やんでもスコアは戻らない。未来の結果を心配しても、ボールは真っすぐ飛んではくれない。必要なのは、「今ここ」に集中すること。それはゴルフだけでなく、人生にも通じることだ。仕事や家庭、将来への不安…。私たちは知らず知らずのうちに過去や未来に心を縛られている。それゆえに、青空の下で一球に集中する時間には意味があるだろう。さあ、クラブを握れ。「今を生きる力」に磨きをかけよう。

1982年に渡米してゴルフを始め、高校・大学ではゴルフ部に所属。2016年に(公)日本プロゴルフ協会(PGA)ティーチングプロA級資格を取得。2018年よりバンコク在住。現在は「ゴルフスイングアカデミーバンコク」代表兼ヘッドプロフェッショナルとして、初心者から上級者まで幅広いゴルファーを指導している。2016、2017年には日本シニアツアー予選会にも挑戦。バンコク在住以来、サミティベート病院を信頼して利用。2年前の事故による手術・治療も同院で受け、無事完治。58歳。
ゴルフは、年齢を重ねても進化し続ける。
まず最初に確認したいのは、「これまでに90を切った経験があるかどうか?」です。 90を切ったことがない方であれば、まず見直すべきは基礎です。
●グリップ
●アドレス
●ボールポジション
●身体の使い方
●スイング軌道
こうした基本技術を学び直すだけで、
●飛距離アップ
●ミート率向上
●安定性向上
●スコアアップ
につながることが少なくありません。
一方で90を切った経験がある方は、基本技術はある程度身についている可能性が高いため、
●アプローチ
●バンカー
●パター
●コースマネジメント
といったスコアメイクの技術を優先的に磨く方が効果的です。
若い頃と同じスイングを続けることにはリスクがあります。なぜなら、身体は確実に変化しているからです。 若い頃は柔軟性や筋力でカバーできていた動きも、中高年になると負担が大きくなり、ミスショットや故障につながることがあります。 ただし、昔のスイングを否定する必要はありません。 大切なのは、昔の自分に戻ろうとするのではなく、今の自分に合ったスイングへ進化させることです。 より効率よく振る。 より再現性を高める。 より身体に優しく振る。いま、ここからのスイングづくりは、「若返ること、昔に戻ること」ではなく、「最適化すること」です。

中高年のゴルファーに大切なのは、練習量より継続力です。 毎日何時間も練習する必要はありません。 それよりも、●ショートゲーム ●パッティング ●距離感の練習を継続することが重要です。 また、技術だけでなく身体のケアも練習の一部です。股関節や肩甲骨、胸椎の柔軟性を維持するだけでも、スイングの再現性は大きく変わります。 上達し続ける方は、ゴルフの練習だけでなく、身体づくりの努力もしています。
いくつかありますが、最も多いのは、 昔の自分と比較し続けてしまうことです。「昔はもっと飛んだ」「昔はもっと振れた」そう思うのは自然のことです。 飛距離への憧れはゴルファーのロマンですし、向上心がある証拠でもあります。 しかし、その気持ちが強すぎると、今の自分に必要な課題が見えなくなることがあります。上達し続ける方は、年齢という現実を受け入れながらも、挑戦する気持ちを失いません。諦めるのではなく受け入れ、受け入れるから工夫でき、工夫するから上達できます。
十分に可能です。ただし、若い頃のように力だけで飛ばすことは難しくなります。 飛距離アップは、●ミート率の向上 ●柔軟性の改善 ●身体の効率的な使い方 ●クラブフィッティング によって実現することが多くなります。 50歳からのゴルフは、「失ったものを数えるゴルフ」ではなく、「今あるものを最大限に活かすゴルフ」 と言えるでしょう。 若い頃より飛ばなくなったとしても、経験や判断力、ショートゲームの技術はむしろ磨かれていきます。飛距離への憧れは、いくつになってもゴルファーのロマンです。だから飛距離を追い求めてもいいと思います。
ただし、その相手は30年前の自分ではありません。今の自分です。年齢を重ねたからこそ見えてくるゴルフがあります。そして何歳になっても、 「今の自分のベストを更新する楽しさ」 は変わりません。それこそが、 「いま、ここからのゴルフ」の最大の魅力です。
